意見広告―平和と協力の海としての南シナ海構築の必要性

 南シナ海(South China Sea, ベトナム語ではEast Sea (東海))は、世界の他の国々、とりわけアジア太平洋地域の国々にとって戦略的に重要な地域の1つである。それは太平洋とインド洋、ヨーロッパとアジア、中東とアジアを結ぶ幹線航路上にあり、世界十大航路の1つとして世界の海上交通の4分の1を占めている。
 南シナ海はまた、周辺国の生命と経済発展にとって重要な海洋天然資源、特に生物資源(水産物)、非生物資源(石油、ガス、ミネラル)を含む場所でもある。加えて世界でも5位以内に入る最大の石油およびガス盆地の1つであり、可燃性のガスハイドレートの生成・蓄積に適した条件を多く持つ大深海でもある。
 だが長年にわたり、領有権をめぐる緊張が南シナ海で発生しており、この海は常に潜在的に不安定な状態にある。南シナ海沿岸国のほとんどは、1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)の締約国であるが、UNCLOSの下で設立された国際仲裁裁判所は、フィリピンの「九段線」に関する訴訟において、九段線は、中国が一方的に南シナ海の約80%以上の主権を主張しているものの、その主張には法的根拠がなく、国際法に違反しているとの判断が2016年7月に下された。にもかかわらず、関係国は未だに争いを解決することが出来ていない。
 平和で協力的な南シナ海の構築はこの地域の多くの国々の願いでもある。
 ベトナムは、南シナ海の平和と安定を維持することを提唱している最も積極的な国であると考えられている。2021年7月、フィリピンの訴訟に関する国際仲裁裁判所の判決から5周年を迎えるにあたり、ベトナムはどのようなコメントを出したのかという記者の質問に対し、ベトナム外務省報道官Le Thi Thu Hangは次のような主旨を述べた。
 ベトナムは常に南シナ海における主権の争いと管轄権に関する紛争を、国連憲章と1982年のUNCLOSに従って、外交的及び法的プロセスによって、武力行使や威嚇なしに平和的に解決することを支持する。ベトナムはまた、関係各国に対し、法的義務を尊重し完全履行することを要請し、国際法に基づく南シナ海の平和、安定、安全、航行の自由、上空の秩序の維持に積極的かつ実践的な貢献をしていく。
 2022年5月13日にワシントンで開催されたASEAN-US特別首脳会議では、ベトナムのファム・ミン・チン首相は、国際法に基づいて海洋における全ての紛争の平和的解決の姿勢と原則を再確認した。 UNCLOS1982をはじめとした国際法に従い、ベトナムとASEANが南シナ海の締約国行動宣言(DOC)を完全かつ効果的に実施し、有効な南シナ海行動規範(COC)の策定を支援するパートナーを歓迎するとした。
 フィリピン、マレーシア、インドネシアなど、南シナ海での紛争に関係する多くのASEAN諸国は、南シナ海が対立や紛争の領域ではなく、協力と連結のための海でなければならないというベトナムの見解に急きょ同意した。
 南シナ海の80%以上の主権を主張する中国も、その平和と安定を維持する必要性について同じ認識を共有している。2021年9月、ベトナムのグエン・タン・ソン外相との二国間会合では、中国の王毅外相は、他の国々とともに、南シナ海の平和と安定を維持することについての共通の認識に合意している。その結果、ASEANとの交渉が進展し、まもなくCOCが策定される見通しとなっている。
 米国や日本など南シナ海に積極的に関与している国々も、この地域の平和、安全、安定を維持する必要性を確認している。2021年5月の米ASEANビデオ会議で、アトゥール・ケシャプ米国務次官補代理は、バイデン政権がASEANとの戦略的パートナーシップを非常に重要視していることを強調し、世界の生命線である南シナ海の海上警備と安全を含む、地域の平和、安全、安定の維持に貢献するためにASEAN諸国と緊密に連携することを確認した。また、日本の岸田文雄首相は、4月下旬から5月上旬にベトナムとインドネシアを訪問した際、平和で自由な開かれた南シナ海を含むインド太平洋地域に向けて各国と緊密に協力することを約束した。
 世界では、一部の国に残るCovid-19の流行の中で、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、米国-中国、米国-ロシアの競争が激化するなど、予断を許さない出来事が進行中である。平和で安定した南シナ海を維持することは、そこに接するASEAN諸国だけでなく、インドも含め太平洋そして世界のすべての国の利益になり得る重要性を持っている。


市橋 勝 広島大学IDEC国際連携機構教授
チャン ダン スアン 広島大学IDEC国際連携機構准教授

2022-06-10 | Posted in 2022.6.10号No Comments »